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第13回 スウェーデン式休暇の過ごし方
2003.1.14
Gott Nytt År!
今年初のスウェーデンからのエッセイです。今年もよろしくお願い致します。
ストックホルムはマイナス10度前後の気温が続いています。マイナス5度く
らいになると、今日は暖かいねなどと恐ろしいことを言われてしまいます。こ
んな秘境の地から、今日もエッセイをお届けしています。
今回のクリスマスは、南スウェーデンにあるエーランド島で過ごしました。南なので少しは暖かいことを期待しましたが、想像もしなかったマイナス10度でした。そのころストックホルムでもマイナス15度ということでしたので、
寒いクリスマスを迎えることになりました。エーランド島にある知人のサマーハウスで過ごしたのですが、サマーハウスというように、この地域は夏のリゾ
ート地として人気があります。細長い島なので、どこからでも海に近く、夏には最高のロケーションです。しかし、冬はただ寒いだけで、人の気配もあまりありません。また、北極圏のようにトナカイがいたり、オーロラが見えたりと、
いかにも北欧らしいイベントもないので、これといってすることもありません。
しかしこの「特にこれといってすることがない」というのが、スウェーデンのサマーハウスでの正しい過ごし方です。何もすることがないと言っても、サマーハウスの内装や外装の手入れをしたり、庭いじりをしたり、することはあります。多くのサマーハウスは夏仕様になっていて、冬は過ごせないところもありますが、私たちが過ごした家は1年中過ごせるように作られています。この家は築100年は経っています。その間に、内装や外装を修理して、長く使えるように努力しています。広い庭の中に母屋と離れがあり、母屋は2階建てになっていて、10人分くらいのベッドがあります。スチーム暖房もあるのですが、
電気代がかかるということで、ほとんど暖炉ひとつで過ごしました。私はこの暖炉が大好きです。この前にすわって炎を見ていると、何時間でも飽きません。
新しい木を入れると、徐々に火がうつって、炎がいろいろな形に変わり、急に強くなったり弱くなったりします。まるで生き物のようです。木が湿っているとなかなか火がつきません。初めは水分が蒸発して煙を上げますが、それも徐々に少なくなりやっと火がうつると、なんとなくうれしくなります。ゴミとなった紙も暖炉用になります。生ゴミは庭の肥料になり、サマーハウスでは捨てるゴミがとても少なくなります。
さて、私たちには犬がいますので、犬の散歩も日課となっています。やはりス
トックホルムの街中と違い、ちょっと外に出れば自然に囲まれた場所、犬も大喜びです。人間には分からない野生の動物の匂いがするようで、庭中を嗅ぎまわっていました。時々野ウサギがやってくるのですが、それを追いかけるのが大好きです。ウサギも追いつかれないと分かっているのか、かなり余裕をもって逃げています。少し歩くと森があり、森の中を歩き回るのも大好きです。まわりには他に人や動物も見当たらなかったので、森の中で放してやりますと、
それはそれは生き生きと走り回っていました。森の中を走っている姿はまるで野生のオオカミのようでした。いよいよ帰る日になると、庭の真中であお向けに寝転んでしまい、自分はここに残る、とでも訴えているようで、連れて帰るのにひと苦労しました。
クリスマスイヴの夜にはクリスマスディナーをいただきました。グロッグという温かいスパイシーワインを食前酒に、塩漬け
のサーモンと茹でエビ、キャビアなどの冷たい前菜からいただきます。そしてクリスマス用のハム、ヤン
ソン氏の誘惑(ポテトグラタンにアンチョビが入ったスウェーデン料理)、ク
リスマス用のお粥もありました。このお粥は特別なお米で作るのですが、牛乳で煮てあり、砂糖とシナモンをかけて食べます。食事の合間にはスナップスと
いう40度のお酒を飲みますが、飲む前に必ず歌を歌います。そしてスコールといって、一気に飲み干します。スナップス用の小さなグラスに入っているのですが、それでも一気に飲み干すと、喉がヤケドしたような感じになります。
イヴのディナーの後は、サンタクロースがやってくる時間です。今回は、13歳の子供がサンタに扮しました。小さな身体にサンタクロースのお面をかぶっ
た姿は、とてもカワイかったです。
その他の日のディナーの後は、団欒のひとときです。ブランデーなどを飲む人もいましたが、私たちはいつも紅茶をいただきました。カードやモノポリーゲームを楽しんだりもしました。スウェーデン版のモノポリーは、通りの名前がストックホルムの有名な通りや地名になっていました。
ちょっと晴れた日には、近くの海までドライブに行きました。海の浅い部分は凍っているのです。その上でスケートができます。スケート靴も、フィギュアスケートのような靴ではなく、長距離用の少し歯が長くなっているものです。
そして両手にはストックも持つのです。まるでスキーのよう。広い海の上をスケートで滑るのは壮大な気分です。しかし、氷が薄くなっている部分がある可能性もあるので、もしも割れた場合の非常用として、両端にびょうがついたものを肩からかけて滑ります。万が一氷が割れて落ちた場合に、そのびょうを手に持って氷にさして起き上がるためだそうです。それがなければ立ち上がることができず、凍死してしまうそうです。なんだか想像しただけで
気が遠くなりそうです。
今回のエーランド島では、冬の自然の中での生活を楽しんできました。寒いのであまり長時間外にはいられませんが、代わりに暖炉の前に長時間すわり、数冊の本が読めました。ストックホルムにいると、家にいる時はコンピュータの前にすわることが多かったり、他にすることが色々とあるので、のんびりと本を読む時間を作れません。しかし、このような田舎暮らしでは他にすることがないので、本を読んだり、長い時間犬の散歩に行ったりしてゆったりと過ごせ
ます。手芸や編物を持っていってもいいなと思いました。なんとなく時間が止まっているようで、もったいないようですが、精神的なリフレッシュをするには大切な時間です。
ところで、スウェーデンにはあまり娯楽施設がありません。映画館やオペラ、 劇場などはありますが、ゲームセンターやパチンコなどはもちろんありません。
その代わり自然に恵まれているので、自然の中で自然と戯れることを楽しみます。湖では、夏は泳ぎ、冬はスケートをします。湖のまわりにレストランやお店などもオープンしませんので、自然が損なわれることもありません。着替えやスケート靴や食事は自分で用意するのです。もちろん湖ですので、入場料などはありません。そして、サマーハウスを持つ場合、人里はなれたところに持つのが一般的です。ボロボロのサマーハウスを安く買って、自分
の好みに作り変えることを楽しみます。こういう生活をしてみると、生きているとい う実感が強く沸いてきます。やはり人間も動物、自然も野生の動物も、みんな一緒に生きて行くのが本当なんだと思います。スウェーデン人は自然を守るこ とをとても大切に思っています。ですから、いくら不便でも自然が守られるのだったらかまいません。もっとこうしたら便利になるのに、と思うこともありますが、それが自然を守るためだったら、不便もまたいいのかもしれません。
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