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第19回 リンド外相刺殺事件とユーロ導入の国民投票 2003.9.23 この2週間ばかり、スウェーデンではいろいろなことが起こりました。まずいちばん大きな出来事は、なんといっても外務大臣のアンナ・リンド氏の刺殺事件で す。リンド氏は9月10日の午後にストックホルム旧市街横にある外務省をでて、近くにあるギャラ リアンでショッピングを楽しみ、その後NKデパートへと向かいました。そこで悲劇が起こったのです。何者かが刃物で彼女に襲いかかり、リンド氏は抵抗をしたのですが、1階にある衣料店のFlippaK前で力尽き ました。その時まわりの人々は彼女が外務大臣とは分からず、女性が襲われたということで救急車が呼ばれたのですが、その後彼女が外務大臣のアンナ・リンド氏であると確認される とすぐにデパートは閉鎖されました。しかし犯人はすでに外に逃げた後でした。 リンド氏は一晩中カロリンスカ病院で手術を受けましたが、翌日11日の早朝5時29分に亡くなりました。10日の夕方からのニュースはほとんどリンド氏の容態を伝えるもので した。翌朝も8時ごろの報道では、彼女の容態はやや良くなったがまだ重体であるとのことでした。しかし9時すぎになって、一斉にリンド氏が亡くなったことが報道されました。えっ!まさか亡くなるなんて!!呆然としてしま いました。 朝のニュースでは容態が少しは良くなったと報道されていたのに。しかし亡くなったのが午前5時29分であるから、朝8時のニュースは事実を伏せたものだったのです。 2日後の日曜日にはユーロ導入の国民投票があり、リンド氏は導入賛成派の代表としてキャンペーンで活躍し、街中に彼女のポスターが溢れていました。つい先日もキャンペーンで街中に繰り出していたばかりでした。まだ46歳のリンド氏は精力に溢れ、将来の総理大臣 候補でもありました。10歳と12歳の男の子の母親でもあ ります。ヨラン・パーション現首相の片腕として政治家としてとても活躍していました。外務大臣として外国からの信頼も得ていました。とても自然体で、エラぶるところもなく近寄りがたい雰囲気もなく、国民にとても親しまれてい ました。スウェーデンでは国賓級の人たちと国民がとても近い距離にあります。王室と首相以外はボディガードもつきません。外務大臣ほどの人でも、一般の人々が行くようなデパートに気軽に出入りしているので す。しかし残念ながら、そんな気軽なスウェーデン式が裏目にでてしまった今回の事件でした。 そして今回の事件で多くのスウェーデン人が思い出すのが、1986年に起きた当時の首相であるパルメ氏の暗殺事件です。首相は通常ボディーガードがついている のですが、この時パルメ氏は夫人と映画を見にいくプライベートな時間だったため、ボディガードをつけなかったのです。そんな中で事件は起きてしまいました。 リンド外相の突然の訃報で国民が悲しんでいる中、14日日曜日にユーロ導入の国民投票が行われました。投票率は81,2%という通常通りの高さで す。即日開票で、当日の夜にでた結果はNO。賛成41.8%、反対56.1%で、スウェーデンのユーロ導入は反対という結果となりました。ストックホルムとスコーネ地区は賛成派が過半数を占め ましたが、その他の地区は全て反対派が過半数でした。 賛成派であったアンナ ・リンド氏の逝去への同情票として賛成派が増えるかという予想もありましたが、多くの人が自分の意思を貫いたといえる結果となりました。反対ということは、現状のスウェーデンに満足している人が多いということを意味する のでしょう。また、ユーロへの不信感がまだあるということかもしれません。 今回の投票に関して、ユーロが導入されるとスウェーデンはどうなるかといった 政治的な説明が不足していたように思います。しかし、ユーロが導入されれば、いやおうなしにスウェーデン社会も今まで以上にEUの影響を受けることになり、スウェーデン独自のシステムが変わっていく可能性もあ ります。ユーロが導入されて喜ぶのは都市在住の一部の裕福層だけかもしれません。その結果として、都市部のスト ックホルムとスコーネ以外は反対という結果となったのでしょう。半透明なユーロを導入するよりも、現実のスウェーデンのままでいてほしいという人が多かっ たということは、今のスウェーデンの暮らしぶりに満足している人が多いということなのかもしれません。この結果を天国にいるアンナ・リンド氏はどのように感じているの でしょうか。 |
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